東北医科薬科大学病院 腫瘍内科医療者向けコラム / 実習教材(仮)

医学部4年生の臨床実習

担当患者のカルテを書く
腫瘍内科のSOAP記載例(仮)

担当患者の状況に合う記載例を参考に、症状・所見・評価・計画を書いてください。略語や評価指標の意味も、このページで確認できます。

毎日の記録では、がん種・治療名・コースとday・今日の問題を簡潔に示してから、SOAPを書きます。担当交代時には、治療経過と現在の問題を箇条書きのサマリにまとめます。

SSubjective:主観的情報

患者さんの言葉で、訴え・生活への影響・希望

OObjective:客観的情報

バイタル、診察、検査とその日時

AAssessment:評価

問題、根拠、鑑別、重症度、診断の確実性

PPlan:計画

報告、検査・治療案、再評価、説明

SOAPを書くときの基本
  • S:主な訴えは患者さんの言葉を「」で引用します。問診内容を要約する場合は引用と区別します。家族・看護師からの情報は、誰から得た情報かを明記します。
  • O:診察・検査で確認した所見を記載します。測定値には単位、日時、測定条件を付けます。
  • A:S・Oをもとに、病態、原因、重症度、経過、リスクを評価し、その根拠を書きます。診断が確定していない場合は「疑い」と記載します。
  • P:Aを踏まえて、これから行う確認、検査、治療、相談、再評価、悪化時の対応を書きます。複数の問題があれば、AとPに同じ問題番号を付けます。

学生の評価・計画案と、担当医が決めた方針や実施済みの処置は区別します。投与可否や処方・指示は担当医が判断します。確認していない項目を「異常なし」「なし」と記載しません。


場面別の記載例

担当患者の状況に合う記載例を選ぶ

以下は架空症例の記載例です。症状・診察・数値・確認済みの方針は、担当患者で実際に確認した内容に置き換えます。学生の評価・計画案と、担当医が決めた方針を区別して記載してください。

担当を引き継ぐ医師に、治療経過と現在の問題を伝える

サマリには治療経過と現在の問題をまとめる

架空症例:切除困難S状結腸癌・多発肝転移。担当交代時のサマリと、投与前のSOAP。

用語の説明:コース・day / CTCAE・ADL / RECIST

① 冒頭に置く腫瘍学的サマリ

  • 診断:S状結腸腺癌・多発肝転移。現時点で切除困難。
  • 治療目的:腫瘍縮小・病勢制御。
  • 治療歴:2026/7/7 mFOLFOX6開始。9/29までに7コース施行。
  • 直近の画像所見:9/22 CTで肝病変縮小、新病変なし。
  • 現在の問題:手指のしびれがコース間にも持続し、調理に支障。

② 今日のSOAP(学生の評価・計画案)

S

本人:「前の点滴のあとから、両手の指がずっとしびれていて、料理が難しいです。」

「着替えとお風呂は自分でできます。」

「治療は続けたいけれど、これ以上手が使いにくくなるのは心配です。」

O
10/13 C8D1予定。前回投与9/29。9/22 CT:肝病変縮小、新病変なし。本日T 36.7℃、BP 124/72 mmHg、HR 76/分、SpO₂ 98%室内気。手指遠位感覚低下、明らかな筋力低下なし。好中球2,200/μL、Plt 16.4万/μL、Cr 0.72 mg/dL、AST 27、ALT 23 U/L、T-Bil 0.7 mg/dL。
A

#1 手指のしびれ:オキサリプラチン関連の末梢性感覚ニューロパチーを疑う。しびれが持続し、調理に支障があるため、CTCAE v5.0 Grade 2相当。着衣・入浴は自立している。

#2 切除困難S状結腸癌:9/22 CTで肝病変が縮小しており、治療効果が認められる。神経障害が日常生活に支障を来しており、同じ用量で治療を続けた場合には悪化のリスクがある。

P

#1 他の原因の可能性を問診・神経学的診察で評価する。神経障害の程度・持続期間・生活への影響を投与前に指導医へ報告する。施設で採用しているレジメンの減量・休薬基準を確認し、オキサリプラチンの減量・休薬を相談する。

#2 バイタル、診察、採血、他のAE、本人の意向を確認し、治療効果と神経障害の悪化リスクを踏まえて、各薬剤の投与方針を担当医と検討する。

退院時サマリなら、何を追加する?

入院理由、主要診断と根拠、重要な治療と反応、退院時の状態、退院薬の変更理由、結果待ちの検査、次回受診・採血、担当科、悪化時の連絡方法を追加します。単日のSOAPだけでは、入院全体と退院後の対応は伝わりません。


カルテで使う略語・評価指標

C1d8=第1コースの8日目。
Cはcycle(コース)、d/Dはday(日)。C1D1は第1コース開始日、C2D1は第2コース開始日です。通常は開始日をday 1と数え、C1d8は7日後を指します。「8回目の投与」ではありません。休薬日も含み、day 8に投与があるかはレジメンによって異なります。延期がある場合は、予定日と実際の投与日を併記します。
記載例:10/13 mFOLFOX6 C8D1予定、前回投与9/29。レジメン=薬剤・用量・投与日・休薬期間を定めた治療計画。mFOLFOX6はフルオロウラシル、ホリナート、オキサリプラチンを組み合わせたレジメンです。
CTCAE:有害事象のGrade(重症度)を評価する

CTCAE=Common Terminology Criteria for Adverse Events(有害事象共通用語規準)。AE(adverse event)は有害事象です。治療との因果関係が確定していなくてもAEとして記録し、原因についての評価は別に書きます。

Gradeは有害事象の重症度を表す

Grade(グレード)は1〜5で表し、数字が大きいほど重症です。「G2」は「Grade 2」の略です。以下は各Gradeの一般的な意味です。

CTCAE v5.0の一般的な定義をもとにした説明。実際の判定には、有害事象ごとの定義を用います。
Grade一般的な意味
1:軽症症状がない、または症状が軽い。診察や検査で異常が見つかっても、治療を必要としない程度。
2:中等症局所的な治療や非侵襲的な処置を要する、または調理・買物などの動作に支障がある程度。
3:重症重症、または医学的に重大な状態。入院や入院期間の延長が必要になる、あるいは着替え・入浴など身の回りの動作が制限される程度。直ちに生命を脅かす状態には至っていない。
4:生命の危険生命を脅かす状態で、緊急の処置を必要とする。
5:死亡その有害事象による死亡。

この表だけでGradeを決めず、各項目の定義を確認してください。下痢は普段の便回数から何回増えたか、神経障害は症状と生活動作への影響、肝酵素上昇は基準上限や治療前値からの変化などで判定します。すべての有害事象にGrade 1〜5の定義があるわけではありません。CTCAE v5.0 日本語訳JCOG版:Gradeの定義

調べ方とカルテへの書き方

CTCAEの全項目を暗記する必要はありません。担当患者に必要な項目をHOKUTOなどで調べ、実習先で使っている版の定義に従ってGradeを判定します。カルテにはAE名、最も強かったときのGrade、現在の状態、判定の根拠、考えられる原因、対応を記載します。

HOKUTOでCTCAEを確認(ログインが必要な場合あり) / JCOGのCTCAE資料

このページのGrade例はv5.0です。HOKUTOではv5.0とv6.0を切り替えられるため、実習先で使っている版を確認してください。HOKUTOの版切替の案内

記載例

末梢性感覚ニューロパチー G2(CTCAE v5.0)。両手指のしびれがコース間にも持続し、調理・小銭の扱いに支障。着衣・入浴は自立。オキサリプラチン関連を疑う。

投与可否はGradeだけで決めず、治療効果、臓器機能、本人の希望、施設の投与基準も踏まえて判断します。

ADL=activities of daily living(日常生活動作)。セルフケアADLは着衣・入浴・食事・排泄など、IADL(instrumental ADL:手段的日常生活動作)は調理・買物・金銭管理など。irAE=immune-related adverse event(免疫関連有害事象)、ICI=immune checkpoint inhibitor(免疫チェックポイント阻害薬)。

RECIST:画像で治療効果を判定する

RECIST=Response Evaluation Criteria in Solid Tumours(固形がんの治療効果判定規準)。主に画像上の病変の大きさで効果を評価します。RECIST 1.1では、標的病変の径和、非標的病変、新病変を合わせて全体の判定を行います。

RECIST 1.1の主な用語・条件。下記だけで全体判定を確定せず、画像評価と採用規準を確認します。
表記意味・主な条件
CR
complete response
完全奏効。全病変の消失等の規準を満たす。リンパ節には短径の規準がある。
PR
partial response
部分奏効。標的病変の径和が治療前から30%以上減少し、全体判定では非標的病変の明らかな増悪・新病変がない。
SD
stable disease
安定。PRに達する縮小も、PDに該当する増悪もない。
PD
progressive disease
進行。標的病変の径和が治療中の最小値から20%以上、かつ5 mm以上増加。または新病変、非標的病変の明らかな増悪等。

標的病変は経過を追って測定する病変です。測定した各病変の径の合計を「径和」と呼びます。通常の病変は長径、リンパ節は短径を用います。PRでは治療前の値、PDでは治療中の最小値(nadir)を基準にします。

正式な評価がある場合:9/22 CT:RECIST 1.1 PR(担当医の効果判定)。標的病変径和100 → 68 mm、治療前比−32%。非標的病変の明らかな増悪・新病変なし。
未確認の場合:9/22 CT:肝病変縮小、新病変なし。RECISTの正式判定は未確認。

「少し小さい」をPRに置き換えたり、腫瘍マーカーの低下だけでPRと記載したりしません。RECIST未評価でも、撮影日・比較した画像の日付・具体的な所見を記載できます。RECIST Working Group:RECIST 1.1

ECOG PS:日常の活動から全身状態を評価する

PS=performance status(全身状態・活動性の指標)。ここではECOG(Eastern Cooperative Oncology Group)の尺度を用います。歩行・仕事・家事・身の回りの動作・日中にベッドや椅子で休む時間を確認します。

ECOG PS活動の目安
0発病前と同様に活動でき、制限なし。
1激しい活動は制限されるが、歩行可能。軽い仕事や家事はできる。
2歩行・セルフケアは可能だが仕事はできない。起きている時間の50%超をベッドの外で過ごす。
3セルフケアは一部に限られる。起きている時間の50%超をベッドや椅子で過ごす。
4セルフケアができず、終日ベッドや椅子で過ごす。

尺度上のPS 5は死亡を表します。ECOG-ACRIN:公式尺度

ECOG PS 1。歩行・身の回りの動作は自立。軽い家事は可能だが、以前の農作業は困難。

PSには、その根拠となる活動状況を添えます。治療前から変化した点も記載します。PSは全体の活動性、CTCAEは個々の有害事象の重症度を評価するもので、別々に判定します。

採血・酸素化・症状の程度:数値と測定条件を記載する
項目・略語カルテでの扱い
ANC
absolute neutrophil count
好中球数。単位は/μL。総白血球数(WBC)と取り違えず、投与基準との照合に用いる。
Hb/Pltヘモグロビン/血小板数。検査日と単位を記載し、採血値が施設の投与基準を満たすか確認する。
Cr/eGFRクレアチニン/推算糸球体濾過量。腎機能の評価に用いる。薬剤ごとに、用量設定に用いる腎機能の指標を確認する。eGFRを使う場合は、体表面積の補正がある値かどうかにも注意する。
AST/ALT/T-Bil肝酵素/総ビリルビン。肝障害が問題なら、実測値・治療前値・推移・基準上限を示す。肝酵素だけで肝機能全体を判断しない。
ULN
upper limit of normal
施設の基準範囲上限。「ALT 168 U/L、ULN 40、4.2×ULN」のように記載。CTCAEの判定には治療前値も関係する。
SpO₂経皮的酸素飽和度。酸素を使っていない場合は室内気と記載し、使用中は器具と流量を記載。例:SpO₂ 95%(鼻カニュラ2 L/分)。
NRS
numerical rating scale
疼痛等の程度を患者自身が数値で表す尺度。疼痛では通常0=痛みなし、10=想像できる最も強い痛み。例:右季肋部痛NRS 3/10、歩行時6/10。患者の申告としてSに記載する。

バイタルの略語:T=体温、BP=血圧、HR=心拍数、RR=呼吸数。PT-INRは凝固能の指標です。数値・尺度は経時比較に役立ちますが、本人が評価した症状はS、診察・検査で確認した事実はOに記載します。