コラム vol.03

抗がん剤を「やめる」と言われたときに

― ご家族に知っておいてほしいこと ―

こんな不安はありませんか?

  • 抗がん剤をやめたら、何もしてもらえなくなるのではないか
  • 家族として、まだ治療を続けてほしいと言うべきか迷っている
  • 本人に、今後の希望をどう聞けばよいかわからない
  • 緩和ケアや在宅医療を勧められると、見放されたように感じてしまう

抗がん剤をやめることは、医療が終わることではありません

がん治療では、治療を重ねるにつれて、抗がん剤で得られる効果が限られてくる一方で、副作用や通院、入院の負担が大きくなることがあります。特に体力が落ちている時期には、抗がん剤を続けることが、かえって生活の質を下げてしまう場合もあります。12

「やめる」ではなく、目標を見直す

医療者が抗がん剤の終了を提案するとき、それは患者さんを見放すためではありません。痛みや息苦しさ、不安を和らげ、できるだけ穏やかに過ごせる時間を支えるために、治療の目標を見直す提案です。3

「がんを小さくする治療」から「生活を支える治療」へ

抗がん剤を終了しても、できる医療は多くあります。痛み、息苦しさ、食欲低下、だるさ、不眠、不安への対応、在宅医療の調整、家族への支援などは、すべて大切な医療です。

症状を和らげる

痛みや息苦しさ、吐き気、食欲低下、不眠などに対して、薬剤調整やケアの工夫を行います。

過ごしたい場所を整える

自宅、病院、緩和ケア病棟など、本人と家族が安心して過ごせる場所を一緒に考えます。

家族を支える

介護の負担、仕事との両立、医療費や制度の相談など、ご家族が一人で抱え込まないための支援があります。

希望を共有する

何を大切にしたいか、どのように過ごしたいかを、本人・家族・医療者で少しずつ共有します。

決めるのは「本人だけ」でも「医師だけ」でもありません

がん治療の方針は、医学的な見通しだけでなく、患者さんが何を大切にしているかによっても変わります。医師は情報を説明し、患者さんやご家族は希望や不安を伝え、その両方をすり合わせながら方針を決めていきます。34

問いかけの例

「これからの時間で、いちばん大切にしたいことは何ですか」
「できるだけ避けたいことはありますか」
「家で過ごしたい、入院のほうが安心など、今の気持ちはありますか」

▶ すぐに答えが出なくても大丈夫です

本人の気持ちは変わることがあります。何度も話し合い直してよい、という前提で進めることが大切です。5

ACPは「最期を決める話」ではなく、これからの希望を共有する話です

ACP(アドバンス・ケア・プランニング)は、将来の医療や療養について、本人の価値観や希望を、家族や医療者と共有していくプロセスです。延命治療をするかしないかだけを決めるものではありません。6

1

何を大切にしたいか

家族との時間、仕事、食事、家で過ごすことなど、本人らしさにつながる希望を確認します。

2

誰に相談してほしいか

本人が十分に話せなくなったとき、誰が代わりに気持ちを伝えるかを共有します。

3

必要に応じて見直す

病状や気持ちは変化します。一度決めたことも、何度でも話し合い直して構いません。

早めの緩和ケアは、あきらめるための医療ではありません

緩和ケアは、終末期だけの医療ではありません。がん治療と並行して、症状や不安を和らげ、生活を支えるために利用できます。転移性肺がん患者を対象とした研究では、早期から緩和ケアを取り入れることで、生活の質や気分の落ち込みが改善し、終末期の過剰な治療を減らす可能性が示されています。7

「緩和ケアを紹介された」ことは、治療を見放されたという意味ではありません。患者さんとご家族が、より安心して過ごすための支援を増やすという意味です。

家族だけで抱え込まないでください

抗がん剤をやめるかどうかの話し合いは、ご家族にとっても大きな負担です。主治医、看護師、薬剤師、医療ソーシャルワーカー、がん相談支援センター、緩和ケアチームに相談してください。

医師・看護師

病状、治療の見通し、症状緩和について相談できます。

がん相談支援センター

療養場所、介護、仕事、費用、制度など生活面の不安を整理できます。

在宅医療・緩和ケア

自宅で過ごすための医療体制や、症状への対応を支えます。

ご家族自身の支援

介護する側の不安や疲れも、相談してよい大切なテーマです。

最後に

抗がん剤をやめるという話は、希望を失う話ではありません。これからの時間を、患者さんにとってよりよいものにするために、治療の目標を見直す話です。

「もう治療がない」ではなく、「これから何を大切にするか」。その視点で、患者さん、ご家族、医療者が一緒に考えていくことが大切です。

参考文献

  1. Prigerson HG, Bao Y, Shah MA, et al. Chemotherapy Use, Performance Status, and Quality of Life at the End of Life. JAMA Oncol. 2015;1(6):778-784.
  2. Murillo JR Jr, Koeller J. Chemotherapy given near the end of life by community oncologists for advanced non-small cell lung cancer. Oncologist. 2006;11(10):1095-1099.
  3. Gilligan T, Coyle N, Frankel RM, et al. Patient-Clinician Communication: American Society of Clinical Oncology Consensus Guideline. J Clin Oncol. 2017;35(31):3618-3632.
  4. Stiggelbout AM, Pieterse AH, De Haes JCJM. Shared decision making: Concepts, evidence, and practice. Patient Educ Couns. 2015;98(10):1172-1179.
  5. Baile WF, Buckman R, Lenzi R, Glober G, Beale EA, Kudelka AP. SPIKES-A six-step protocol for delivering bad news: application to the patient with cancer. Oncologist. 2000;5(4):302-311.
  6. Rietjens JAC, Sudore RL, Connolly M, et al. Definition and recommendations for advance care planning: an international consensus supported by the European Association for Palliative Care. Lancet Oncol. 2017;18(9):e543-e551.
  7. Temel JS, Greer JA, Muzikansky A, et al. Early palliative care for patients with metastatic non-small-cell lung cancer. N Engl J Med. 2010;363(8):733-742.
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文責
腫瘍内科 川村 佳史