教育コラム vol.02 若手医師〜腫瘍内科志望者向け
見逃すな 急速に悪化するirAE― 初期対応で見逃したくない重症irAE ―
CONTENTS
00 WHY IT MATTERS
なぜ知っておくべきか 免疫チェックポイント阻害薬(ICI)は多くのがん種で生存期間を延長する画期的な治療薬である。その一方で、過剰な免疫活性化に起因する免疫関連有害事象(irAE)は、低頻度ながら急速かつ致死的に進行しうる ものが存在する。
最も重要なメッセージは「発熱=感染症 」とは限らないこと、そして「なんかいつもと違う 」という病棟の気づきを大切にすることである。
重症irAEの共通原則は早期認識・早期ICIの中止・早期ステロイド介入 であり、初期対応の遅れが予後を大きく左右する。
irAEは臓器別に独立して起こるとは限らない 。心筋炎+筋炎+重症筋無力症が同時発症するMMM overlap syndromeのように、複数irAEが重複した場合はとくに致死的となる[1] 。
01 ICI-ASSOCIATED ENCEPHALITIS
irAE脳炎 神経系irAE(nirAE)は稀ではあるが、脳炎・髄膜炎・末梢神経障害など多彩な病型をとり、重症例では急速に進行しうる[1,2] 。脳炎はその中でも特に診断が困難で、発症から介入までの時間が予後を決定する 。
ICI投与開始から数週〜数ヵ月後(典型的には1〜3ヵ月)に発症する。抗CTLA-4+抗PD-1の併用療法で頻度が高くなる。
見逃したくないサイン
「いつもと違う」「なんかぼーっとしている」という病棟スタッフの訴え 会話のスピードが遅い、言葉が出にくい(亜急性の経過) 性格変化・易刺激性・感情の不安定さ 記銘力の低下(今日の食事を覚えていないなど) 注意障害・失見当識 新規発症のけいれん 発熱(必ずしも高熱ではない)📋 よくあるシナリオ
ニボルマブ投与2コース目後、「最近食事中に話しかけても反応が遅い」と家族が来院。本人は「少し疲れているだけ」と話すが、会話の中断が多く日付を誤る。体温37.8℃。脳転移の増悪と思われたが、MRIで新規病変なし。髄液のHSV-PCRが陰性でirAE脳炎と診断。早期のステロイド開始により改善。
鑑別と評価
検査項目 目的・意義 MRI頭部(FLAIR/T2) 海馬・辺縁系のFLAIR高信号(辺縁系脳炎)を確認。正常例もあり。脳転移・卒中との鑑別 髄液検査(LP) 細胞数増多・蛋白上昇(非特異的)。HSV/VZV-PCRを必ず実施 し感染性脳炎を除外。CMV・その他ウイルスPCR、細胞診・フローサイトメトリーも考慮 脳波(EEG) 非痙攣性てんかん重積(NCSE)の除外 自己免疫性脳炎抗体 抗NMDAR抗体、抗LGI1抗体など(血清・髄液)。陰性でも脳炎を除外しない 感染症精査 血液培養、CMV、EBV、クリプトコッカス抗原など
治療(Grade 2以上)― NCCN 2026準拠 ―
ICIを即座に中止 (Grade 3〜4では永続的中止を検討)感染性脳炎が除外されるまでアシクロビル経験的投与 (10 mg/kg IV 8時間ごと)。HSV/VZV-PCR陰性確認後に中止。細菌性髄膜炎も除外できない場合は抗菌薬を並行投与し感染症科と連携 一次治療:メチルプレドニゾロン 1〜2 mg/kg/日 (静注) 。症状消退後4週間かけてtaper 24時間以内に重症化または症状進行を認める場合 :mPSL を1 g/日 × 3〜5日 (静注パルス)へ増量 + IVIG(2 g/kg を2〜5日で分割投与)または血漿交換を追加自己免疫性脳炎抗体陽性または7〜14日間改善がない場合:リツキシマブを考慮 神経内科・脳神経内科へ緊急コンサルト 腫瘍性髄膜炎・脳転移の増悪との鑑別が重要。 ステロイドはどちらにも一時的に有効なことがあり、画像と髄液所見を総合して判断する。神経症状が急速に悪化する場合は積極的に神経内科へコンサルト。
02 CRS / HYPERCYTOKINEMIA
CRS / Hypercytokinemia CRSはCAR-T療法やBiTE抗体で典型的に起こるが、ICIでも腫瘍量が多い場合や薬剤開始直後 に発生しうる。免疫細胞の急速な活性化によりIL-6などのサイトカインが大量放出され、全身性炎症を惹起する。
TayらのICI関連CRSの実臨床的な捉え方: Tayらの報告では、ICI投与後に38.0℃以上の発熱を伴う全身性炎症反応 を来した症例のうち、感染症だけでは説明しにくいものをICI関連CRSとして検討している。「発熱・低血圧・低酸素=敗血症」と決めつけず、感染症評価と並行してCRSを疑う ことが重要である[3] 。PCTが高値でも感染とは限らない 。発熱・低血圧・低酸素の組み合わせは敗血症と酷似するため、ICI投与患者の「感染症疑い」ではCRSも念頭に置く。
見逃したくないサイン
38℃以上の発熱(必須) 収縮期血圧の低下・昇圧剤が必要な低血圧 酸素飽和度の低下・呼吸困難 フェリチン著明高値(数千〜数万 ng/mL) CRP・IL-6の急激な上昇 肝障害・腎障害・凝固異常(多臓器障害への進展)CAR-T/BiTE由来CRSとICI関連CRSは、同じ「サイトカイン過剰状態」であっても背景病態と治療目標が異なる。 CAR-T/BiTEでは免疫エフェクター細胞活性を維持しつつ炎症を制御することが重視される一方、ICI関連CRSでは感染症・HLH/MAS・他臓器irAEとの鑑別を並行しながら、自己免疫性過炎症による臓器障害を抑えることが中心となる。そのため、CAR-T/BiTE領域のアルゴリズムをICI関連CRSへそのまま外挿することには限界がある。2026年5月21日現在、ICI関連CRSにおいて「ステロイドを優先するべきか」「トシリズマブを早期導入するべきか」は確立していない。 実臨床では、感染症・神経irAE・心筋炎・大腸炎・HLH/MAS overlapの有無を評価しながら、全身状態や臓器障害を踏まえて個別に判断する必要がある。CRS重症度評価の参考:ASTCT grading(主にCAR-T/BiTEなど免疫エフェクター細胞療法で用いられる分類)[4]
Grade 定義 Grade 1 発熱(≥38℃)のみ。低血圧・低酸素なし Grade 2 発熱 + 低血圧(昇圧剤不要)または低酸素(低流量O₂で管理可) Grade 3 低血圧(昇圧剤1剤)または低酸素(高流量・フェイスマスク) Grade 4 低血圧(複数昇圧剤)または低酸素(IPPV/CPAP)
📋 よくあるシナリオ
ペムブロリズマブ初回投与1週後に38.5℃の発熱、血圧90/60 mmHg。血液培養を採取し、抗菌薬を開始したが解熱しない。フェリチン12,000 ng/mL、CRP 22 mg/dL、PCT 2.8 ng/mL。感染症としては説明しきれない一方で、菌血症も完全には否定できない という状況であった。抗菌薬治療と感染症評価を継続しつつ、ICI関連CRSを疑い、以後のICI投与は見合わせ、抗菌薬を継続しながら高用量ステロイドを開始した。 反応不十分またはIL-6優位の高サイトカイン血症が疑われる場合には、抗IL-6療法(トシリズマブ)追加を検討する。
治療方針(ASTCT分類・Tayらの報告・irAE対応原則を参考)
Grade 1:対症療法・慎重な経過観察。ICI継続可能な場合もある。 Grade 2:ICIを一時休薬 し、感染症・他irAE・HLH/MASを評価する。全身状態や臓器障害に応じてステロイド導入を検討する。 Grade 3〜4:以後のICI投与を見合わせ、集中管理を検討する。 高用量ステロイド(メチルプレドニゾロン 1〜2 mg/kg/日 またはパルス療法)を開始する。IL-6優位の高サイトカイン血症が疑われる場合やステロイド反応不十分例では、トシリズマブなどの抗IL-6療法追加を個別に検討する。改善後のICI再投与は、重症度・代替治療・再燃リスクを踏まえて慎重に判断する。 感染症の完全除外が困難な場合は、抗菌薬と免疫抑制療法を並行して開始することも考慮する。 Tayらの25例のケースシリーズでは、9例(36%)でステロイドパルス、6例(24%)でトシリズマブが使用された。一方、トシリズマブ投与例の一部は致死的転帰をたどっており、トシリズマブは「CRSなら反射的に投与する薬」ではなく、重症度・感染症・HLH/MAS・消化管病変を評価したうえで検討する選択肢 として扱う[3] 。 Dimitriouらの後ろ向き研究では、ステロイド反応不十分かつCRP・IL-6高値を認めたCRS関連有害事象6例にトシリズマブが投与された。投与後、症状・徴候は速やかに改善し、irAE消退までの中央値は3日(1〜15日)と報告されたが、改善した患者数は明記されていない。この結果は、ICI関連CRSに対するトシリズマブをステロイドの代替ではなく、ステロイド治療で反応不十分な場合に追加を検討する薬剤と位置づける考え方を示唆する。ただし、CRS 6例で用いられたステロイドの具体的な用量は示されておらず、ステロイドパルス療法との併用効果や最適な追加時期は確立していない[13] 。 感染症とirAEのオーバーラップは実臨床では頻繁に起こる。 好中球減少中の患者が発熱した場合、FN(感染症)の治療を優先しつつ、治療への反応が乏しい場合はirAEを疑って評価を並行して進める。トシリズマブはCRSに対する有力な選択肢であるが、ICI関連CRSでは病態が均一ではない。「CRS→トシリズマブ」と反射的に処方する前に、以下を確認する。
① ICI関連大腸炎 / 消化管転移がある(疑う)場合 腹痛・反跳痛・下血・イレウス徴候・遊離ガス を認める場合は、腸管穿孔リスクを考え、原則として投与を避ける。ASCOガイドラインでは、大腸炎または消化管転移がある患者ではトシリズマブ使用を避けるよう注意喚起されている[1] 。② 活動性感染症(敗血症)が除外できない場合 トシリズマブはCRPを急速に低下させ、感染の徴候をマスクする 可能性がある。「発熱=CRS」と早計に判断して投与すると、潜在的敗血症を見逃すリスクがある。ESMOは免疫抑制の前提として「代替診断(感染・腫瘍熱)の除外」を求めている[2] 。 ③ 神経症状(ICANSなど)が目立つ、または併発している場合 CAR-T領域での知見では、ICANSに対してトシリズマブの有効性は限定的 とされ、神経症状が目立つ場合はステロイドを軸に対応することが多い[4] 。ICI患者では神経irAEとして別に評価する。 ④ 骨髄予備能が低下している場合(重度血球減少・肝障害背景) トシリズマブでは感染症、好中球減少、肝機能障害などに注意が必要である。化学療法既治療などで骨髄予備能が低下した患者では、免疫抑制の追加による感染症リスクを個別に評価する。
腹痛・反跳痛・下血・イレウス徴候がある場合は、CRP低値でも腹部CTを検討する。 IL-6阻害後は炎症反応がマスクされるため、腹部所見を確認してから処方判断を行う。「irCRS?感染?irHLH?」を並行して考える。 発熱をCRS前提で抗IL-6療法に飛びつく前に、消化管病変・感染源・神経症状の有無を確認する。神経症状が主体の場合は、神経irAEとしてステロイドを軸に対応する。処方前チェックリスト
腹痛・下痢・下血・腸管転移の有無 → あれば原則避ける 血液培養・感染源の評価が終わっているか → 不完全なら先に実施 神経症状(意識障害・錯乱・失語)が主体か → そうならステロイド優先 好中球数・肝機能の確認 → 骨髄抑制・重度肝障害では慎重に 以上を確認したうえで、重症例またはステロイド反応不十分例では抗IL-6療法追加を検討する
03 ICI-ASSOCIATED MYOCARDITIS
irAE心筋炎 irAE心筋炎は発症率こそ低いが、致死率が極めて高い(25〜50%)[5,6] 。典型的な胸痛が目立たないことが多く 、「なんとなく倦怠感がある」という訴えのみで来院することもある。
大半がICI投与開始後早期(中央値:投与開始から30〜34日) に発症する。抗PD-1+抗CTLA-4の併用療法で発症率が高く、重症化しやすい。
見逃したくないサイン
倦怠感・息切れ(軽微でも要注意) 胸痛・動悸(ない場合も多い)トロポニン(cTnI/cTnT)の上昇 :最も重要な早期マーカー 心電図異常(ST変化・新規の脚ブロック・房室ブロック) 眼瞼下垂・複視・嚥下障害を伴う場合→MMM overlapを疑うICI使用中の患者でトロポニン上昇を認めたら、心筋炎を強く疑い即日評価する。 左室駆出率(LVEF)が保たれていても心筋炎は除外できない。完全房室ブロックや心室性不整脈が突然出現し致死的な経過をたどることがある[5] 。評価フロー
検査 確認すべき点 トロポニン(高感度) まず必ず測定。上昇の程度と経時変化を確認 12誘導心電図 ST変化・QRS幅・PR延長・不整脈 心臓超音波(エコー) LVEF・壁運動異常・心膜液貯留(LVストレイン測定が可能なら実施) NT-proBNP / BNP 心不全の合併評価 心臓MRI 炎症の局在評価・確定診断に有用(modified Lake Louise criteria) CK・CK-MB・AChR抗体 骨格筋炎・MG overlap(MMM)の鑑別
治療(疑った時点で開始)― NCCN 2026準拠 ―
ICIを即座に永続中止 (回復後の再チャレンジは原則禁忌)一次治療:ステロイドパルス療法 ―メチルプレドニゾロン 1 g/日(静注)× 3〜5日 を速やかに開始反応良好・全身状態が安定したら経口プレドニゾロン 1 mg/kg/日 へ切替え → 臨床反応とバイオマーカー(トロポニン・BNP)に基づき6〜12週かけて漸減 開始後24〜48時間で反応不十分 なら追加免疫抑制を検討:アバタセプト・アレムツズマブ・ATG・IVIG(2 g/kg を2〜5日で分割 )・ミコフェノール酸モフェチル・血漿交換など(Infliximabは低LVEF例に極めて慎重に)循環器内科へ緊急コンサルト・ICUレベルの心臓モニタリング継続 完全房室ブロック・致死的不整脈には一時的 / 永続的ペーシングを考慮 ガイドライン間の差異: NCCN 2026は重症度にかかわらずパルス療法(1 g/日 × 3〜5日)を一次治療として推奨する。ASCO 2022・ESMO 2022は1〜2 mg/kg/日から開始し重症例でパルスへ移行する段階的投与を記載している。本コラムはNCCN 2026を基準とした[7] 。
04 MMM OVERLAP SYNDROME
心筋炎・筋炎・MG overlap (MMM症候群) 筋炎(inflammatory myopathy)・重症筋無力症(MG)・心筋炎が単独または組み合わせで発症するirAEのスペクトラム。三重overlap(MMM syndrome)の致死率は38〜60% と極めて高く、irAEの中でも最も致死的な病態の一つである[8,9] 。
眼瞼下垂・複視などの神経筋接合部症状を認める場合は、筋炎や心筋炎の合併を積極的に検索する[8,9] 。ICI開始後の眼瞼下垂+倦怠感+トロポニン上昇 という組み合わせには最高レベルの警戒が必要。典型的にはICI開始後28〜30日以内に発症することが多い[7] 。
見逃したくないサイン
眼瞼下垂・複視 :MGの初期症状。「まぶたが重い」という訴え 嚥下障害・構音障害(球症状) 易疲労性の筋力低下(近位筋・頸部屈筋を含む) 筋痛・筋圧痛 呼吸困難・呼吸筋の関与→MGクリーゼへの移行に注意 トロポニン上昇(心筋炎合併) CK著明高値(横紋筋融解症を来すことも)診断のための評価
検査 意義 CK・CK-MB・LDH 筋炎の指標。横紋筋融解症の合併評価 トロポニン 心筋炎合併の評価(必須) AChR抗体・MuSK抗体・抗横紋筋抗体 MG確認(陰性でも除外不可)。ICI関連MG/筋炎では抗横紋筋抗体が高率に陽性 筋電図(EMG)/ 反復神経刺激試験 myogenic patternとjitter増大、MGにおける疲労現象の確認 呼吸機能(NIF・肺活量) 呼吸筋の関与を評価。MGクリーゼの予兆を早期に把握 MRI筋肉・筋生検 炎症性筋炎の確認(必要に応じて)
📋 よくあるシナリオ
イピリムマブ+ニボルマブ投与3週後、「まぶたが開きにくい」と受診。倦怠感もある。眼科に紹介される予定だったが、担当研修医がトロポニンを測定したところ著明高値。心電図で1度房室ブロック。CK 3,800 U/Lも判明。MMM overlap syndromeと診断され、ICUでステロイドパルス療法と呼吸管理を開始。
MGの症状が目立つ症例に対して高用量ステロイド(≥ 2 mg/kg/日)を急速投与するとMGクリーゼを誘発しうる。 NCCN 2026では「≥ 2 mg/kg/日はMG症状を増悪させうる」と脚注で明示している[7] 。神経内科専門医と連携し、投与量・投与速度を慎重に判断する。呼吸筋の関与がある場合は予防的ICU管理を検討。治療(多職種チームで対応)― NCCN 2026準拠 ―
ICIを即座に永続中止 【筋炎の症状が目立つ場合(CK高値・筋痛・近位筋力低下など)】 メチルプレドニゾロン 500 mg〜1 g/日(静注)× 3日 → プレドニゾロン 1 mg/kg/日 (経口)へ切替え。4週後から 10 mg/2週 ずつ漸減 → 0.5 mg/kg/日 まで、以降 10 mg/月 ずつ【MGの症状が目立つ場合(眼瞼下垂・複視・嚥下障害・呼吸筋障害など)】 メチルプレドニゾロン 1〜2 mg/kg/日 (2 mg/kg/日 を超えないよう注意 )+ 血漿交換 または IVIG(2 g/kg を2〜5日で分割 )を早期に追加嚥下障害・生命脅威・ステロイド1週間無効の場合:IVIG・メトトレキサート・ミコフェノール酸モフェチル・リツキシマブを考慮 呼吸状態の頻繁な評価(SpO₂・最大吸気圧・肺活量)→ 悪化時は気管挿管を躊躇わない 循環器内科・神経内科・ICUとの多職種連携が必須
05 ICI-ASSOCIATED HLH / MAS
HLH / MAS様病態 HLHはマクロファージと細胞傷害性リンパ球の過剰活性化によるサイトカインストームであり、ICI使用中にも発症しうる[10,11] 。ウイルス感染・悪性腫瘍・自己免疫疾患などと鑑別が困難で、著明な高フェリチン血症(>10,000 ng/mL)と血球減少の組み合わせ が重要な手がかりとなる。
ICI投与開始からHLH発症まで数週間〜数ヵ月のラグがあることが多く、ICIとの因果関係に気づきにくい。感染症の検索で陰性所見が続くにもかかわらず病状が悪化する場合はHLHを疑う。なお、ICI関連HLH-like syndromeは従来のHLH診断基準(HLH-2004)を満たさない場合もある 。
見逃したくないサイン
持続する高熱 (抗菌薬に反応しない)フェリチン著明高値 (>10,000 ng/mL は強力な示唆;≥500 ng/mLで診断基準に含まれる) 2系統以上の血球減少(汎血球減少) 脾腫・肝腫大 肝機能障害(AST/ALT上昇) 高トリグリセリド血症・低フィブリノゲン血症(DIC様所見) 意識障害(神経症状を合併することもある)HLH-2004診断基準(5/8項目以上で診断)[10]
# 診断基準 1 発熱 ≥38.5℃ 2 脾腫 3 2系統以上の血球減少(Hb <9 g/dL、PLT <10万/μL、好中球 <1,000/μL) 4 高トリグリセリド血症(≥265 mg/dL)または低フィブリノゲン血症(≤1.5 g/L) 5 骨髄・脾臓・リンパ節での血球貪食像 6 NK細胞活性の低下または欠如 7 フェリチン ≥500 ng/mL(10,000以上は強力示唆) 8 可溶性CD25(sIL-2R)≥2,400 U/mL
📋 よくあるシナリオ
ペムブロリズマブ4コース目の数週後、発熱と全身倦怠感で入院。各種培養・ウイルス検査が陰性にもかかわらず解熱しない。フェリチン9,850 ng/mL、汎血球減少、LDH高値、sIL-2R高値。骨髄生検で血球貪食を確認し、プレドニゾロン1 mg/kg/日で改善。
HLHにおける感染症との鑑別は極めて困難。HScoreを用いた確率評価が補助ツールとなる。ICI関連HLH-like syndromeにはエトポシド(HLH-94プロトコール)は積極的に推奨されない(NCCN 2026に記載なし)。 ただし国内irAEアトラス(2025年)はサイトカインストーム合併の重症例に限りエトポシド単回投与の検討を提案しており[12] 、エトポシドを完全に否定するものではない。血液内科専門家と相談のうえ個別に判断する。 治療 ― NCCN 2026準拠・重症度別 ―
ICIを中止 一般的なICI関連HLH-like syndrome(NCCN 2026): プレドニゾロン / メチルプレドニゾロン 0.5〜1 mg/kg/日 (またはデキサメタゾン等価量)で開始し、臨床反応に合わせて漸減(例:プレドニゾロン換算で最大10 mg/週ずつ)5日間反応なければ :トシリズマブ・アナキンラ・ルキソリチニブ・シクロスポリン・エマパルマブなどの追加を検討サイトカインストームを伴う重症例・ICU管理下(irAEアトラス参考): 高用量ステロイド 2〜5 mg/kg/日(静注) +トシリズマブなどの抗IL-6療法を迅速に並行投与。十分な反応が得られない場合、エトポシド(150 mg/m² 静注、単回 )の検討を提案する意見もある[12] 。ただし、エトポシドの適用はNCCN 2026では記載されておらず、血液内科専門医との相談のうえ判断する。血液内科へ早期コンサルト(HLH-like syndrome専門家との相談を強く推奨)
06 DANGER COMBINATIONS
見逃せないサインの組み合わせ 以下の症状の組み合わせはそれぞれ特定の致死的irAEを示唆する。ICI投与患者でこれらの組み合わせを認めたら、即日評価・専門科コンサルトを行う。
危険な症候の組み合わせ
発熱 + 意識変容 + 亜急性の認知機能低下
疑う病態 irAE脳炎 HSV/VZVを除外しつつ、ステロイド開始を検討
高熱 + 低血圧 + フェリチン著明高値 + 感染症陰性
疑う病態 CRS / HLH 敗血症と並行して過炎症病態を評価
倦怠感 + トロポニン上昇 + 心電図異常
疑う病態 irAE心筋炎 即日循環器内科へコンサルト
眼瞼下垂 + 嚥下障害 + トロポニン上昇 + CK高値
疑う病態 MMM overlap(最重症) 神経内科・循環器内科・ICUと早期連携
持続する不明熱 + 汎血球減少 + フェリチン >10,000 ng/mL
疑う病態 HLH / MAS HScore・骨髄検査・血液内科コンサルトを検討
複数の症候が同時に出現している
考え方 Overlap irAEを積極的に疑う 単一臓器のirAEとして処理しない
重症irAEの概要まとめ ― NCCN 2026等を参考 ―
※ステロイド用量は、NCCN Guidelinesなどを参考に記載している。実際の投与薬剤・投与経路は、重症度、経口摂取の可否、施設方針に従い、メチルプレドニゾロン、プレドニゾロン等をステロイド力価に基づいて調整してください。 病態 致死率 最重要マーカー 初期ステロイド・治療の考え方 初期対応 irAE脳炎 変動大 MRI・髄液・HSV/VZV除外 mPSL 1〜2 mg/kg/日→ 重症・進行時 1 g/日×3〜5日 ICI中止・アシクロビル・ステロイド CRS Grade依存 発熱・低血圧・低酸素+ フェリチン・IL-6など 高用量ステロイドを検討ICI関連CRSでは標準化指針未確立 ICI休薬/中止・感染症評価・集中管理反応不十分例で抗IL-6療法を検討 irAE心筋炎 25〜50% トロポニン・心電図 mPSL 1 g/日×3〜5日 → PSL 1 mg/kg/日へ切替え ICI永続中止・パルス・ICU管理 MMM overlap筋炎の症状が目立つ場合 38〜60% トロポニン+CK+眼症状 mPSL 500 mg〜1 g/日×3日→ PSL 1 mg/kg/日へ ICI永続中止・ステロイド・IVIG・呼吸管理 MMM overlapMGの症状が目立つ場合 38〜60% AChR抗体・EMG・NIF mPSL 1〜2 mg/kg/日(≥2 mg/kgはMG増悪リスク) 血漿交換またはIVIG早期追加 HLH/MAS 29〜41% フェリチン・血球減少・骨髄生検 PSL/mPSL 0.5〜1 mg/kg/日 (NCCN 2026)重症CRS合併例:2〜5 mg/kg(irAEアトラス参考) ICI中止・ステロイド・血液内科コンサルト
「明日から病棟で役立てる」ポイント: ICI投与患者の病棟回診では、毎回「発熱・倦怠感・眼症状・神経症状の変化」をルーティンで確認する習慣を身につける。看護師・病棟スタッフの「なんか変」という一言を流さない。
References
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