― 救急外来で「感染症だけ」にしないための実践ノート ―
ICI ASSOCIATED HYPERINFLAMMATION / 救急外来という最初の関門
免疫チェックポイント阻害薬(ICI)は多くのがん種で標準治療となり、外来通院しながら治療を受ける患者が増えた。その結果、夜間・休日の救急外来でICI患者に出会う機会も確実に増えている。受診理由が「発熱」であれば、まず感染症・敗血症を考えるのは正しく、ここを外すべきではない。
一方で、ICI関連の過炎症病態――CRS様病態、HLH/MAS様病態、irAE脳炎、irAE心筋炎――は、高熱・血圧低下・DIC・多臓器障害という「いかにも敗血症」な顔つきで現れる。そして認識が遅れると急速に致死的になりうる。本編 vol.02 で扱った重症irAEの多くが、救急外来では「敗血症もどき(sepsis mimic)」として最初の鑑別に紛れ込む。
本稿の主張はひとつ。「感染か、irAEか」と二者択一にしない。感染症として全力で初期対応しながら、同時にirAE/CRS/HLHも疑う――この姿勢が救命につながる1,2,3。
SEPSIS-FIRST APPROACH / 同時に疑う発想
大原則として、まずは敗血症として動く。血液培養・各種培養・画像評価を行い、広域抗菌薬・輸液・循環管理を遅らせない。ICI患者はステロイドや免疫抑制下にあることも多く、日和見感染を含む真の感染症リスクも高い。感染を軽視するのは危険である。
そのうえで重要なのは、irAEを疑っても感染症対応を止めないことである。同時に、感染症らしく見えるからといってirAEの可能性を閉じてはいけない。感染と免疫暴走は共存しうるため、「感染 or irAE」ではなく「感染 and/or irAE」として初期評価を組み立てる。
Tayらの報告では、ICI投与後に38.0℃以上の発熱を伴う全身性炎症反応を来した症例のうち、感染症だけでは説明しにくいものをICI関連CRSとして検討している。「発熱・低血圧・低酸素=敗血症」と決めつけず、感染症評価を続けながらCRSも疑うことが重要である4。
ある固形がんに対してICI治療を受けていた高齢患者。治療経過のなかで複数臓器にわたるirAEを発症し、ステロイド導入でいったん改善した。ステロイド減量中、40℃台の発熱・血圧低下・意識のぼんやり・DIC・肝腎機能障害が比較的急速に出現して救急外来を受診した。
CTでは明らかな感染巣を指摘できなかった。一方で PCTが著明に上昇し、フェリチンが桁違いの高値、IL-6も上昇していた。広域抗菌薬とステロイド強化にいったんは反応したかに見えたが、その後急速に再増悪し、救命は困難であった。
教訓: 「PCT高値・感染巣不明・著明な高フェリチン・多臓器同時障害」という組み合わせでは、敗血症として初期対応を行いながらも、そこで思考を止めず、過炎症性irAE(CRS/HLH様病態)を同時に疑う必要がある。感染対応を続けながら早期に免疫性炎症を疑い、検体を確保し、各科へ相談していれば、治療の選択肢をより早く広げられた可能性がある――そう振り返るための症例である。
TRIAGE-LEVEL WARNING SIGNS / 立ち止まるための合図
以下が複数そろうとき、「敗血症一本」で思考を閉じない。とくに抗菌薬反応不良・感染巣が乏しい・著明な高フェリチン・神経所見の組み合わせは要注意である。
| 所見・状況 | なぜ重要か |
|---|---|
| ICI使用歴 | 大前提。治療中だけでなく、最終投与から数週〜数ヵ月後の発症もある。「がん治療中」だけで済ませず薬剤名まで問診する。 |
| 原因不明の高熱 | 感染巣がはっきりしない発熱は、過炎症病態のシグナルでありうる。 |
| 抗菌薬反応不良 | 適切な抗菌薬で経過が説明できない/改善しない場合、非感染性炎症を考える。 |
| 感染巣が乏しい | 画像・培養で focus が同定できないのに全身炎症が強い。 |
| フェリチン著明高値 | HLH/MAS様病態を示唆。ただし輸血・肝障害・がんでも上がるため単独では確定しない(後述)。 |
| DIC・凝固異常 | 過炎症でも敗血症同様にDICをきたす。フィブリノゲン低下はHLHでも特徴的。 |
| PCT高値・感染巣不明 | PCTは感染で上がるが、CRS/過炎症でも上昇しうる。PCT高値=感染確定ではない。 |
| 「会話が遅い」「ぼーっとする」 | 注意障害・記憶のあいまいさ・反応の鈍さ。発熱せん妄と決めつけずirAE脳炎を疑う。 |
| トロポニン上昇・心電図異常 | トロポニン/CK上昇、新規の脚ブロック・房室ブロックはirAE心筋炎の警告。倦怠感・息切れ・動悸でも疑う。 |
| 眼瞼下垂・複視・嚥下障害 | 神経筋接合部症状。トロポニン上昇を伴えば MMM overlap(最重症) を想起(→本編 vol.02)。 |
| 多臓器が同時に障害 | 肝・腎・心・神経・血液が同時に悪化する像は、単一感染巣では説明しにくい。 |
ADDITIONAL TESTS / 一次スクリーニングと「確保して後日」
Red Flagsがそろうなら、敗血症ワークアップと同じタイミングで以下を追加し、検体を確保しておく。検査は「即日で動かす一次スクリーニング」と「外注で結果が遅いため検体を確保して後日解釈する」ものを分けて考えると現場で扱いやすい。
保存血清を確保し早めにオーダー、後日解釈sIL-2R(可溶性IL-2受容体α鎖、sCD25)は、活性化したT細胞・マクロファージから放出され、免疫活性化の程度を反映するマーカーである。HLH-2004 基準では ≥2,400 U/mL が一項目に採用されている5。救急外来で「フェリチンだけ」見ていると拾えない情報を補える。
成人HLHの診断では、sIL-2Rはフェリチンより診断能が高いと報告されている(成人コホートで sIL-2R は AUC 約0.90、フェリチンは約0.78)6。目安として 2,400 U/mL 以下は除外方向、10,000 U/mL 超は確定方向に傾く。一方でリンパ腫・他のリンパ増殖性疾患・自己免疫・感染でも上昇するため特異的ではなく、がん患者では原疾患そのもので高値になりうる点に注意する。sIL-2R/フェリチン比が高い場合はリンパ腫関連血球貪食症候群(LAHS)が示唆される7、という観点も知っておくと解釈に役立つ。
| 項目 | フェリチン | sIL-2R(sCD25) |
|---|---|---|
| 結果が出るまで (turnaround) | 院内測定が多く、当日中に結果が出る → 一次スクリーニング向き | 外注検査が多く、結果まで数日かかる → 保存血清を確保し後日解釈 |
| 何を反映 | マクロファージ活性化・炎症(非特異的) | T細胞/マクロファージ活性化の程度 |
| HLHでの位置づけ | HLH-2004の一項目(≥500)。>10,000ではHLHを強く疑う契機になるが、成人では著明高値単独でHLHを確定しない。5,8 | HLH-2004の一項目(≥2,400 U/mL)。成人で診断能が高いとの報告5,6 |
| 注意点 | 輸血・肝障害・がんでも上昇。著明高値単独では成人HLHを確定しない | リンパ腫・自己免疫・感染でも上昇。がん患者では原疾患でも高値になりうる |
PITFALLS / 数値を読み違えない
ICI関連CRSは病態が均一でなく、「CRS→トシリズマブ」と反射的に処方する前に確認すべき点がある。とくに ① 消化管病変・腸管転移(穿孔リスク)、② 活動性感染症の除外、③ 神経症状が主体でないか、④ 骨髄予備能・肝機能 を確認する。詳細は本編 vol.02 の「トシリズマブを使う前に確認すべき4つの視点」を参照。
MULTIDISCIPLINARY ESCALATION / 抱え込まない
救急医・当直医が単独で抱え込まない。Red Flagsがそろう時点で、主治科(腫瘍内科)と集中治療へまず一報を入れるのが現実的。そこから病態に応じて各科へ広げる。
| 疑う病態 | 早期に相談したい科 |
|---|---|
| CRS/HLH・過炎症 | 血液内科・膠原病内科(リウマチ科) |
| irAE心筋炎・不整脈 | 循環器内科(心電図モニタリング継続) |
| irAE脳炎・意識/認知変容 | 神経内科(MRI・髄液・脳波・HSV/VZV関連検査)。HSV・VZV否定までアシクロビル併用+ステロイド |
| MMM overlap・呼吸筋関与 | 神経内科・循環器内科・ICU(呼吸管理) |
「感染として動きながら、irAEを疑って検体を確保し、早めに各科へつなぐ」。この3つを同時に回すのが救急外来の役割。確定診断を救急で完結させる必要はない。
PATTERN RECOGNITION / 症候の組み合わせで気づく
以下の処方メモは主に海外ガイドライン(NCCN 1.2026・ESMO)に基づく。本邦では薬剤の承認・適応・保険適用が異なる。ステロイド以外の二次・三次治療薬には、irAE に対して適応外(off-label)使用となるもの、または国内未承認・未発売のもの(例:emapalumab-lzsg、anakinra など一部のサイトカイン標的薬・生物学的製剤)が含まれる。
これらは「重症・難治例での選択肢の全体像」として理解し、実際の使用にあたっては国内の承認状況・保険適用を必ず確認し、日本臨床腫瘍学会『がん免疫療法ガイドライン第3版』および専門各科(腫瘍内科・血液内科・循環器内科・神経内科・膠原病内科)の判断に従うこと。救急外来の役割は初期対応と早期コンサルトであり、二次治療薬の選択を救急で完結させる必要はない。
ステロイド用量は、NCCN Guidelines などを参考に記載している。実際の投与薬剤・投与経路は、重症度、経口摂取の可否、施設方針に従い、メチルプレドニゾロン、プレドニゾロン等をステロイド力価に基づいて調整してください。
① ICIは休薬し、Grade 3〜4では永続中止を検討する。神経内科へ緊急コンサルトし、感染性脳炎・腫瘍性髄膜炎・脳転移などの鑑別も同時に進める。
② アシクロビル(経験的投与):IV投与を開始し、用量・投与間隔は腎機能および施設プロトコルに従って調整する。HSV および VZV の PCR 結果が得られるまで継続し、両者が陰性となった時点で中止。細菌性髄膜炎の除外が完了するまで細菌カバーもあわせて検討する。
③ ステロイド(中等症〜重症):IV メチルプレドニゾロン 1〜2 mg/kg/日で速やかに開始。症状が重症または 24時間以内に進行する場合、IV メチルプレドニゾロン 1 g/日 × 3〜5日 を強く検討し、IVIG(用量・投与日数は施設基準と専門科判断に従う)または血漿交換を追加する。7〜14日で改善がなければリツキシマブを考慮。12
神経内科へ緊急コンサルト。詳細・漸減法は 本編 vol.02 irAE脳炎の項 を参照。
① ICIを中止する。心筋炎では原則として再投与は避け、永続中止を前提に専門科で判断する。循環器内科(可能ならcardio-oncology)へ緊急コンサルト。心電図モニタリング継続・ICUレベルの管理を確保する。完全房室ブロック・徐脈には一時ペーシングを躊躇わない。
② ステロイド:IV メチルプレドニゾロン 1 g/日 × 3〜5日(高用量パルスから開始)。反応し安定すれば経口 プレドニゾロン 1 mg/kg/日へ切り替え、臨床反応とバイオマーカー(トロポニン)の改善をもとに 6〜12週かけて緩徐にテーパーする。
③ 24〜48時間で改善なければ追加免疫抑制を検討(アルファベット順で列挙:Abatacept、Alemtuzumab、ATG、Infliximab〔LVEF低下例では極めて慎重に〕、IVIG、Methotrexate、Mycophenolate mofetil、血漿交換)。筋炎・MGとのoverlap がある場合、Abatacept + Ruxolitinib の使用例がある。12
① ICI を即座に永続中止。神経内科・循環器内科・ICUの多職種連携が必須。心筋炎合併時は上記の心筋炎メモを参照する。
② ステロイドは「筋炎の症状が目立つ場合」と「MGの症状が目立つ場合」で考え方が異なる。筋炎の症状が目立つ場合(CK高値・筋痛・近位筋力低下など)は、IV メチルプレドニゾロン 500 mg〜1 g/日 × 3日 → プレドニゾロン 1 mg/kg/日 への切替えを専門科と検討する。MGの症状が目立つ場合(眼瞼下垂・複視・嚥下障害・呼吸筋障害など)は、IV メチルプレドニゾロン 1〜2 mg/kg/日(2 mg/kg/日を超えないよう注意)を基本とし、血漿交換またはIVIGを早期に併用する。
③ 高用量ステロイドの急速投与はMGクリーゼを誘発しうる。神経内科専門医と連携して投与速度・量を決定する。IVIGは 0.4 g/kg/日 × 5日、または 1 g/kg × 2日を目安に検討する。呼吸状態を頻繁に評価(SpO₂・最大吸気圧・肺活量)し、悪化時は躊躇わず気管挿管する。詳細は 本編 vol.02 MMM overlapの項 を参照。
① ICI を中止。血液内科・HLH管理の専門家へ早期コンサルト(治療が遅れると致死的)13。感染症・リンパ腫など他の原因も同時に評価する。
② ステロイド:プレドニゾロン または IV メチルプレドニゾロン 0.5〜1 mg/kg/日(1回投与)、あるいはデキサメタゾン相当量。フェリチンなどの炎症マーカーをモニタリングしながら緩徐にテーパー(最大10 mg/週ペース)する。
③ 5日間でステロイドに反応しない場合、tocilizumab・anakinra・ruxolitinib・cyclosporine・emapalumab-lzsg などの追加を検討する。1,12
注意:ICI関連HLHはHLH-2004の古典的診断基準を満たさない場合があり、過炎症の臨床パターンとフェリチン・sIL-2Rの動向をあわせて判断する。
ICI使用歴のある発熱・ショック患者では、敗血症ワークアップに フェリチン1本+簡単な神経の確認(会話の速さ・注意・見当識)+トロポニン・心電図 を“ついでに”足し、sIL-2R・IL-6 は検体を確保しておく。コストは小さく、見逃したときの代償は大きい。「なんとなく反応が遅い」は、軽視できない神経所見である。