INTRO

お見舞いに行くと、いつもと様子が違う。こちらを見ても、誰なのか分からないように見える。普段なら言わないような言葉を向けられる。

病気の影響だと頭では分かっていても、大きなショックを受けます。

私自身も、大切な人が入院していたとき、連日お見舞いに通っていました。ある日、その人は私を見ても、誰なのか分からない様子でした。

医師として、せん妄を知っていたつもりでした。それでも、そのときは涙が出るほどショックでした。

このコラムでは、ご家族に知っておいていただきたいせん妄の特徴と、せん妄に直面したときにご家族が抱きやすい気持ちについてお伝えします。

UNDERSTANDING DELIRIUM

せん妄とは

せん妄は、病気や治療、薬、入院環境などの影響で、意識や注意力、考える力などが急に乱れる状態です。数時間から数日のうちに現れ、一日の中でも状態が大きく変わることがあります。[1] [2] [3]

ご本人には、次のような変化が現れることがあります。

  • 今いる場所や時間が分からなくなる
  • ご家族や医療者を認識できなくなる
  • 話のつじつまが合わなくなる
  • 実際にはないものが見えたり、聞こえたりする
  • 落ち着かなくなり、点滴を抜こうとする
  • 昼夜が逆転する
  • いつもよりぼんやりして、眠っていることが増える

[1] [2] [3]

落ち着かず興奮している状態だけが、せん妄ではありません。静かに眠っているように見えたり、口数が減ってぼんやりしているように見えたりする「低活動型せん妄」もあります。

朝は会話ができていた方が、夜になると混乱する。このように時間帯によって状態が変わることも、せん妄の特徴です。[1] [2] [3]

せん妄は、感染症、脱水、痛み、息苦しさ、便秘、尿が出にくいこと、薬の影響、手術、腎臓や肝臓などのはたらきの低下、慣れない入院環境など、さまざまな要因が重なって起こります。[1] [2]

原因を治療することで改善する場合もあります。一方で、以前のような状態に戻るまで時間がかかったり、病状によっては十分に改善しなかったりすることもあります。[1] [2] [3]

ここで、最初にお伝えしたい大切なことがあります。

せん妄は、ご家族の接し方が原因で起こるものではありません。

FOR FAMILIES

せん妄に直面したご家族に起こること

せん妄について説明を受けても、ご家族のつらさがすぐに消えるとは限りません。

ご家族は、次のような気持ちを抱くことがあります。

  • 自分のことを分かってもらえず、関係が途切れたように感じる
  • 暴言や拒絶、疑いを向けられ、傷つく
  • ご本人の苦しそうな姿を見て、怖くなる
  • 何を伝えても届かないように感じる
  • 腹が立ったり、病室から離れたくなったりする
  • そばにいられないことに罪悪感を抱く
  • 自分の対応が悪かったのではないかと後悔する
  • もう会話ができないかもしれないと悲しくなる

[4] [5]

悲しい、怖い、腹が立つ、逃げたくなる――。どの気持ちも、大切な人が変わってしまったように見える場面では、自然に起こり得るものです。

「家族なのだから、いつも穏やかに接しなければ」と、ご自身に言い聞かせる必要はありません。

LOOKING BACK

「何度も訂正して、怒らせてしまった」

あのとき、本人の言うことを何度も訂正して、怒らせてしまった。否定しない方がよいと、もっと早く知っていれば……

そのように振り返り、ご自身を責めるご家族もいます。

しかし、ご家族が事実を伝えようとしたのは、ご本人を困らせたかったからではありません。何とか落ち着いてほしい、いつもの状態に戻ってほしいと願ったからこその反応です。

せん妄のことや、そのときの接し方を知らなかったご自身を、責める必要はありません。

次に同じような場面があれば、そのときに少し対応を変えれば十分です。過ぎた場面を、あとから何度も見直して、ご自身を責める必要はありません。

怒ってしまったことや、病室を離れたことがあったとしても、それだけで、これまでご本人を大切に思ってきた気持ちや、築いてきた関係が否定されるわけではありません。

HOW TO RESPOND

「否定しない」とは、話を合わせることではありません

医療者から「ご本人の話を否定しない方がよい」と言われると、事実ではない話にも同意しなければならないのかと、戸惑うかもしれません。

ここでいう「否定しない」は、話の内容を正しいと認めることではありません。ご家族が無理に話を合わせたり、いつも適切な言葉を返したりする必要もありません。

ご本人が不安や混乱の中にいるときは、事実を説明して分かってもらおうとしても、うまく伝わらないことがあります。何度も訂正されることで、不安や怒りが強くなる場合もあります。

そのようなときには、正しいか間違っているかを、その場で決着させなくてもかまいません。[2] [3]

たとえば、「家に帰らなければ」と繰り返しているとき、「今は帰れないでしょう」と説明し続ける代わりに、次のように返すことがあります。

  • 「家のことが心配なんだね」
  • 「帰りたいんだね」
  • 「今は私がそばにいるよ」
  • 「どうしたら安心できるか、看護師さんにも相談してみよう」

[2] [3]

うまく言葉が見つからなければ、無理に答えなくてもかまいません。そばにいる、話題を変える、看護師に相談するなど、ご家族ができることを一つ選べば十分です。

どのように声をかけても、ご本人が落ち着かないことはあります。それは、ご家族の声のかけ方が悪かったからではありません。

WHAT MAY HELP

ご家族が無理なくできそうなこと

次に挙げるのは、ご本人を必ず落ち着かせる方法ではありません。ご家族ができそうだと感じることだけを、無理のない範囲で試してみてください。

  • 面会のはじめに、「息子の〇〇です」など、ご自身の名前と関係を短く伝える
  • ご本人が受け止められそうなときに、今いる場所や時間を伝える(時計やカレンダーが見える位置にあるかを確かめるのもよいでしょう)
  • 一度にたくさん説明したり、いくつもの質問をしたりしない
  • 普段使っている眼鏡や補聴器を使えるようにする
  • 写真など、ご本人になじみのあるものを持ち込めるか医療者に相談する
  • 痛みや息苦しさなど、気になる症状を医療者に伝える
  • ご家族が気づいた「普段のご本人との違い」を医療者に伝える

[2] [3]

何を話せばよいか分からないときは、静かにそばにいるだけでもかまいません。ご本人やご家族が疲れているときは、無理に話しかけ続ける必要もありません。

YOU DO NOT HAVE TO CARRY IT ALONE

ご家族が、しなくてもよいこと

そばにいることには意味があります。しかし、ご本人のそばに居続けることは、義務ではありません。

ご家族だけで、次のことを背負う必要はありません。

  • 一日中付き添い続ける
  • ご本人のすべての言葉に返事をする
  • 一人でご本人を落ち着かせる
  • 暴言や拒絶に耐え続ける
  • 点滴を抜くなどの危険な行動をご家族だけで止める
  • 治療や薬について、ご家族だけで結論を出す

つらいときには、病室を離れても、帰宅して休んでも、ほかの人と交代してもかまいません。

ご本人がご自身や周囲の人を傷つける危険があるときは、ご家族だけで無理に止めようとせず、距離をとって医療者を呼んでください。

休むことや助けを求めることは、ご本人を大切に思う気持ちと矛盾しません。

ASK FOR SUPPORT

ご本人だけでなく、ご家族のつらさも伝えてください

ご本人の様子が急に変わったときは、できるだけ早く医師や看護師へ伝えてください。

ご家族が知っている「普段のご本人の様子」は、医療者が変化に気づくための大切な情報です。[2] [3]

同時に、ご家族自身のつらさも、医療者へ伝えてかまいません。

例えば、次のようなことです。

  • ご本人の様子を見るのが怖い
  • 暴言や拒絶に傷ついている
  • 夜間の付き添いが限界になっている
  • 自分の対応を後悔している
  • 薬を使うことや、眠っている時間が増えることに迷いがある
  • せん妄が起きたときの場面が、頭から離れない

[4] [5]

何を最もつらいと感じるかは、ご家族によって違います。

「私自身もつらい」「このことが一番心配です」と、ご家族の側から伝えてかまいません。

つらさを話したからといって、必ず気持ちが軽くなるとは限りません。それでも、ご家族だけで抱え続ける必要はありません。

AFTER DELIRIUM

せん妄が落ち着いたあとも

せん妄が改善したあと、ご本人がせん妄中の出来事を覚えている場合もあれば、ほとんど覚えていない場合もあります。

ご本人が話せる状態になり、ご家族も話したいと感じたときには、そのときのことを一緒に振り返ってもよいでしょう。ただし、無理に思い出してもらう必要はありません。

ご家族が振り返ることをつらいと感じる場合も、無理に話題にする必要はありません。

病状によっては、せん妄が十分に改善しないこともあります。

それでも、せん妄のなかでご本人が口にした言葉や示した反応を、そのまま本心や、これまで築いてきた関係の結論として受け取る必要はありません。

A FINAL MESSAGE

おわりに――その一場面だけで、関係は決まりません

私自身、あの日のことは今も忘れられません。それでも、その人と過ごしてきた時間の意味が、あの一日で変わってしまったわけではないと、今は思っています。

せん妄のなかで向けられた言葉や、ご家族がその場でとった対応が、あとから何度も心に残るかもしれません。それでも、その一場面が、ご本人とご家族が重ねてきた時間のすべてを表しているわけではありません。

つらいと感じたときは、どうか一人で抱え込まずに、担当の医師や看護師にお話しください。ご本人だけでなく、ご家族を支えることも、私たちの役割だと考えています。

参考資料

ご家族が読める日本語の資料

本コラム作成にあたって参照した資料

[4]・[5]は、終末期せん妄を経験したご家族・遺族を対象とした研究です。

  1. NICE: Delirium: prevention, diagnosis and management in hospital and long-term care(CG103)(2010年7月28日公開、2023年1月18日最終更新。患者・ご家族向け情報
  2. Memorial Sloan Kettering Cancer Center: Caring for Someone With Delirium
  3. Memorial Sloan Kettering Cancer Center: Delirium—A Guide for Caregivers
  4. Namba M, et al. Terminal delirium: families' experience. Palliative Medicine. 2007.
  5. Morita T, et al. Terminal delirium: recommendations from bereaved families' experiences. Journal of Pain and Symptom Management. 2007.

このコラムは、ご本人・ご家族に一般的な情報を提供するものです。症状や治療についてのご質問は、主治医または担当の医療者にご相談ください。

文責腫瘍内科 川村 佳史

公開